広さ3坪、初期投資30万円から始めた
夫婦二人の「OYATSUYA SUN」
目次
(前編)
OYATSUYA SUN
「なくても困らないけれど、あったら人生が楽しくなるもの」をコンセプトに、スコーンやマフィン、フォンダンショコラやパウンドケーキなどの焼き菓子と、シングルオリジンのコーヒーを提供。テイクアウトを中心にしつつ、店内のカウンターやベンチでのイートインも可能。月に一度、夜の営業もあり。12:00〜18:00(水曜のみ〜16:00) 月火定休(水曜不定休)
https://www.instagram.com/oyatsuya_sun/ https://www.oyatsuyasun.com/開業経験ゼロでオープン!
3坪から始まった極小店舗の裏側とは?
山葡萄の枝が覆う小さな店「OYATSUYA SUN」が東京・桜新町にオープンしたのは、2020年のこと。
「今の店は8坪で、厨房と販売スペースでそれぞれ半分ずつ使っています。厨房はすれ違うのが難しいくらいの狭さ。でも、最初に始めた店はもっと狭くて3坪だったんですよ」と、笑いながら教えてくれる梅澤秀一郎さん。妻のちあきさんと二人で「OYATSUYA SUN」を経営しています。
3坪だったという最初の店は、2011年にオープン。梅澤さん夫婦がともに会社員だったころに始めたそう。
「きっかけは、親戚が持っていたテナントが空いて、そこで何かやってみないかと声をかけてもらったこと。当時、妻が焼いてくれたフォンダンショコラがとてもおいしくて感動したので、焼き菓子を販売するのはどうかと考えました。3坪という狭さだったので、イートインではなく、販売だけにすればできるかもしれない、と」
小売の知識は一切なし。情報収集は、ネット頼み。
会社に勤めながらなので長く続けられるかはわからない。それでも、ひとまずやってみようという気持ちでスタートすることに。
「初期投資は30万円。業務用の小さいオーブンと、専用の型、梱包材を購入して始めました。とはいえ、飲食店で働いたことがないので、何もわからない状態。どこで何を買ったらいいのか、どんなものを選べばいいのか、ゼロから調べながらです。当時、よく読んでいたのがcottaさんのコラム。鮮度保持剤の種類やサイズすらわかっていなかったので、すごく勉強になったんです」
販売するお菓子は、フォンダンショコラやスコーンなどの得意なお菓子だけ。少量ずつ作って販売しながら、お客様の反応に合わせて種類を変えていったそう。
平日は会社員として働きながら、週末にお菓子を作って売るというスタイルを続けること2ヶ月。少しずつお客様が増えていき、ダブルワークが辛くなってきたことから、梅澤さん夫婦はそれぞれ会社を辞める決心をします。
「26歳くらいの時で、若いから決断できたんだなと、今になって思います。僕は独立して自分で何か仕事を生み出したいという気持ちがあったし、妻は転職を考えていた時だったので、ちょうどよかったのかもしれません。とにかくやってみよう、と。最初から100パーセントは目指さず、当時の自分達にできることをかき集めるようにして。コーヒーの勉強をして、焼き菓子との組み合わせを提案したり、少しずつ販売の仕方を模索していきました」
店舗拡大のきっかけは、大手通販サイトとの出会いから
かくして3坪の小さな店をオープンさせ、少しずつお客さんが増えてはいくものの、当然ながら、売れ行きが良い日もあれば、悪い日も。実店舗にこだわらず、各地のイベントへ出店し、販売する場を広げるようにしていきました。そうして、東京・国立市で出店をしていた際に出会ったのが「北欧、暮らしの道具店」の社長だったのです。
「焼き菓子とコーヒーの飲み比べをしていたのをおもしろがってくれて「北欧、暮らしの道具店」のサイト内でコラムを書いたり、期間限定でお菓子を販売したり。さらには、それぞれ資金を出し合って合同会社にしないかという話になったんです。3坪の店ではできることに限りがあると感じていたので、やってみようと決断。大きなターニングポイントになったと思います」
「北欧、暮らしの道具店」は、暮らしまわりの道具やファッションアイテムなどを販売している人気のECサイト。そのサイト内に「OYATSUYA SUN」の販売ページを掲載し、流通は「北欧、暮らしの道具店」の既存ルートを活用するということに。
「もともと自分達で店頭販売していた店は閉めることにして、通信販売のための製造に専念しようと決めました。国立へ引っ越し、スタッフも厨房機器も増やして完全な『製造所』にシフト。それまでの常連さんに対して申し訳ない気持ちもありましたが、お客様のおかげで自分たちはおいしいおやつを作れているという自信が持てるようになっていた。もっとたくさんの方に届けられるなら、という思いでした」
通販で手広く販売する裏には賞味期限との葛藤があった
1台だったオーブンも台数を増やし、夫婦二人から5人体制に。同時に、梅澤さんは物流の仕組みや経営戦略も学んでいったそう。
「『北欧、暮らしの道具店』さんから、細かく売上やKPIなどがフィードバックされるんです。どんなお菓子が人気なのか、どんな伝え方だと反応がいいのかが、数値でわかる。サイトに掲載する写真や文章は自分でやっていたので、より販売数を伸ばせるように見せ方を考えていきました」
人気サイトということもあり、それまで以上に「OYATSUYA SUN」の存在を知られるようになり、安定した売れ行きを確保し続けていたそう。しかし、続けていくうちに「通信販売の壁にぶつかって、ジレンマを感じるようになった」と言います。
「既存の流通ラインにのせるには、賞味期限が1〜2週間あるお菓子にしないといけません。スコーンなどは無理で、グラノーラやクッキーの詰め合わせなどが多くなってしまう。おいしくても日持ちしないものは出せないという状況が少しずつ苦しくなっていきました。お客様の反応を直接見れないことも重なって、自分達のやっていることに手応えが感じられなくなってしまったんです」
そこで、北欧、暮らしの道具店に相談し、株を買い取って円満に独立。再び、自分達の店を持つことになりました。
(後編の目次)
- 通販専門を終えた後の展開は、8坪に広げた店舗から
- 商品ロスを防ぐ対策は、テストマーケティングにあり
- 接客から得る情報は、ほぼ100%店舗運営に反映!
取材・文/晴山香織 撮影/田中館裕介