ハードパンの魅力の一つ、クープ
フランスパンの表面に割れ目のような模様が見られるのは、クープによるもの。
「クープ(coupe)」とは、フランス語で「切り取られた」という意味。
パン作りの工程で、焼く直前に生地の表面に入れる切り込みのことです。
今回は、クープの役割やクープの入れ方などについてご紹介していきます。
クープの役割
クープは、主に三つの役割を持ちます。
1.パン生地を膨らませる
油脂や卵を含んだパン生地は伸びやすく、クープを入れなくても膨らんでくれます。
ですが、シンプルな材料で仕込むハードパンは膨らむ力が弱く、オーブンに入れると膨らむより先に、周りが焼き固まってしまうのです。
そこで、パン生地が膨らむ助けとして必要なのが、クープ入れ。
クープを入れると、生地内部の湿った部分が表面に現れます。
そして、焼成時にその切り込み部分が水分の蒸発とともに伸び、パン生地が膨らむのです。
2.火の通りをよくする
生地に含まれる水分がクープから蒸発していくので、火の通りがよくなります。
水分が程よく飛んだ生地は、焼き上がったときに内層へ大小の気泡ができて、食感の軽さを生み出します。
3.見た目を良くする
クープというガイドラインを引いておくことで、生地はそこから開き、きれいな形に膨らみます。
例えば、クープを入れずにフランスパンを焼くと、とじ目などからランダムに生地が裂けて膨らみ、いびつな形に。
「飾りクープ」と呼ばれる切り込みの入れ方もあり、生地の表面に浅く模様を入れることで、焼き上がったときにくっきりと浮かび上がります。
どんな道具を使っているの?
クープは、包丁やカミソリでも入れることができますが、クープを入れることに特化した専用の道具もあります。
「クープナイフ」と呼ばれるその道具にはいろいろな種類がありますが、湾曲したカミソリ状の刃が付いたものについて詳しく見ていきましょう。
刃を付け外せるタイプ
柄の部分と刃が別売りのタイプです(画像:左)。
刃の付け外しが可能なため、切れ味が悪くなったら刃の部分だけ交換でき、経済的。
刃が一体型のタイプ
刃をセットする必要がなく、扱いが簡単なタイプです(画像:右)。
私が一番初めに購入したのがこちらのクープナイフで、今でも愛用しています。
クープナイフのお手入れ
使用後に洗ったり、キッチンペーパーで拭き取ったりした後は、刃がさびないようしっかりと乾かしましょう。
刃の部分を保護して収納するのをお忘れなく。
クープナイフの使い方
バゲットのとき
フランス語で「棒」や「杖」を意味する「バゲット」。
フランスパンの中でもポピュラーなパンで、生地が細長く伸ばされているのが特徴です。
バゲットにクープを入れるときは、刃が外側に湾曲するように持ちましょう。
刃先2mmくらいを使って、腕ごと横に動かすようにして切り込みを入れます。
このとき手首を動かすと、刃の入り具合が変わってしまうので、動かさないように注意が必要。
慣れてきたら刃を少しだけ寝かせて、表面の皮一枚をそぐような意識でクープを入れてみてください。
エッジの立ったかっこいいバゲットを目指しましょう。
カンパーニュのとき
フランス語で「田舎」を意味する「カンパーニュ」。
大きめのドーム型で重さがあり、ずっしりとしているのが特徴です。
カンパーニュにクープを入れるときは、クープナイフを鉛筆のように持ち、縦に入れるとよいです。
バゲットよりもう少し深く、3~4mmくらいの深さでクープを入れます。
うまくクープを入れるためのポイント
生地を乾燥させる
タイミング
クープを入れるタイミングは、基本的には二次発酵後のオーブンに入れる直前。
生地の表面が少しだけ乾燥していると、クープが入れやすくなります。
粉を振る
パン生地の表面に、粉を少し振っておくことも有効。
生地の表面に水分が多いと、刃に生地がくっついてクープが入れづらくなります。
具体的な手順
- 二次発酵の最後5分間くらいはパン生地を室内に出して、表面を少し乾燥させる。
- クープを入れる直前に、表面に粉を振る。
- クープを入れる。
クープをなぞる
クープは入れ始めと終わりの部分が浅くなりがち。
なので、浅くなった部分だけスッともう一度クープを入れましょう。
カンパーニュの十字クープのように重なる部分があるときも、クープの入り方に差があると、焼き上がりがいびつになります。
重なる部分をもう一度なぞるようにクープを入れてください。
焼成のこつ
オーブンに入れてから、最初の5~10分間でクープが開きます。
クープを開かせるときに大事になってくるのが、蒸気と温度。
蒸気を発生させる
蒸気を入れないと、クープが開く前に表面が焼き固まってしまいます。
なので、オーブンの加熱水蒸機能や霧吹きをするなどの方法で、蒸気を発生させましょう。
温度を管理する
家庭用のオーブンは、一度扉を開いただけで温度が急激に下がってしまいます。
少しでも庫内の高温を保つためには、天板も一緒に最高温度でしっかりと予熱しましょう。
熱伝導の良い銅板の使用が有効です。
また、予熱したオーブンにパンを入れるときには、カットした段ボールやスリップボード(取り板)などを使うのもおすすめ。
高温で予熱した天板にさっと生地をすべり込ませることができるので、オーブン扉を開ける時間を短縮できます。
そのため、庫内の温度が下がりづらく、パリっとした焼き上がりになるのです。
*やけどには十分注意してください。
クープ入れを身につけよう♪
ポイントをしっかり踏まえたときの一例をご紹介。
画像のようにきれいに焼き上がります♪
*焼成前
*焼成後
かっこよくクープが開いたパンを焼くことは、正直にいうと簡単ではありません…!
なかなかきれいに開いてくれないので、クープ入れと焼成を何度も何度も繰り返します。
それでも失敗してしまうことが、私にも多くありました。
だからこそ、クープが開いてエッジが立ったときや、クラム(中身)に気泡が見えたときは、小躍りするほどうれしくなります。
このコラムが皆さまのパン作りで、少しでもクープが開くヒントになるとうれしいです。